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私のそれをあなたにあげる(上官本線)

上官本線と書いてありますが、できてません。
残念ながら、で き て ま せ ん 。
大事なことなので2度言いました。
チュッチュしてるだけの話です。
って書くと甘い感じしますが、糖度ゼロです。
甘いの期待して読むとがっかり度が半端ないと思われますお気を付けを。

キスをした。まるで戯れのように、自分より低い位置にある薄い唇に、押し付けるだけのまるで稚拙な口づけをした。目は閉じなかった。どんな表情をするのか見たかったからだ。けれど期待したようなものはそこには無かった。いつもと変わらない無表情。引き結ばれた唇が、せめて少しくらい動揺してもいいのにと思うほど硬く閉じられ、それ以上どうしようと思っていたわけでもないが、どことなく残念である。

「何の冗談だ」
「申しわけありません、その…つい」
「つい、か」
「えぇ」

あまりに物欲しそうな顔をしていたので、と、胸中でだけ続いた言葉をもしも声にしていたら、どんな顔をしたのだろう。

「本線」
「はい」
「自業自得という言葉を知っているか?」
「全ての結果は自身の行った行為に基づくものである、という意味の言葉ですね」

ガシ、と胸倉を掴んだ手に少しだけ宇都宮が驚いた顔をすると、そのままソファの上に投げる様に倒される。痛いですよ、と抗議しようとした唇は腹の上に馬乗りになった東北の唇に飲みこまれた。噛みつくように施されたそれに、応える様に薄く唇を開く。招き入れる様に少しだけその歯列を舌先で突くと、薄い舌が絡みついてくる。普段はその熱を感じさせないくせに、やはり内側は熱いのだなと思う。考えれば当然な事実だというのに。

「…熱い」
「そうか」
「悪くないです」

濡れた唇と軽く舐め、口角を上げる。嘘ではない。求められる感覚は非常に心地いいのだ。目の前の上司が、何故自分などにそういう感情を向けているのか、その理由はどうでもよかった。個人的な感情で言うならば、それこそ恨んでもいいほどの相手が、それらの全部を放り投げて、心も体も欲しいと視線で訴える。擽る様な感覚は、そう、悪くない。

「終わりですか」
「…まさか」

強請るように伸ばした腕を首に絡めると、東北の表情は少しだけ険しくなる。誘われるのはお気に召さないのだろうか、と再度触れた唇の奥で思う。食むように重ね、ぬるりと蠢く舌はどこまで奥を目指すつもりなのだろう。

「ん、ぅ…じょぅ、か…ん」

触れる、重なる。味わうように食み、溶かすようになぞり、飲みこむように吸われ。ほんの少し離れる間にどうにか酸素を取り込んで、けれどどうしたって触れている時間の方が長く、だんだんと脳内に霞がかかる。ふいに離されたそれに、いつの間にか閉じていた目を開けると、何と表現するべきか、まるでそう、途方に暮れたような東北の顔があった。

「お前は、私をどうしたいんだ」
「どう、とは」
「こんな」

こんな悪ふざけは、と唇の奥で唸るような声。腫れたように僅かに痺れた唇を、もう一度舐め、こちらから唇を押しつける。言うに事欠いて悪ふざけとは。

「酷いことを言ってくださる」
「酷いとは、何だ」
「酷いですよ。あんな目で見ておいて」

そうだ、まるで焼け付くような。人に見られることは慣れているつもりだった。走り始めたその時から、様々な感情をこめた視線を全身で浴びてきた。その視線の温度や意味を、その時々で正確に理解してきたつもりだ。だからこそ知っている。東北が自分に向ける、複雑なようで極めて単純なその視線の意味を。

「求められるのは、お嫌いですか」
「…本心からなら喜ばしいことこの上ないが」
「本心ではないと」
「お前に求められる理由がない」
「理由がないといけませんか」

初心や純情といった可愛らしいものは疾うの昔に捨ててきた。そういうものを抱えたままでやってこれるほど易い時代ではなかったのだから仕方ない。そこへ来て、目の前にあるのは何だ。焼け付くような視線を、熱を、知っているのに、その根底の何と青いことか。想い合っていなければ、触れることもしないでいるつもりだったのだろうか。

「では、そうですね。一度目は、ただの悪ふざけということにしておきます」
「二度目は?」
「言ったでしょう?悪くない、と。あなたの口づけが思っていたより心地がよかったので、もう一度欲しくなった。それでは足りませんか」

足りないだろうな、と思う。東北が欲しいのはそんな言葉遊びのような回答ではないのだ。それも知っている。けれど残念ながら、宇都宮は優しくない。どうしようもないほど自覚している。簡単に絆されるほど軟ではないし、簡単に落ちるほど可愛くもないのだ。全ての言動が戯れで、そのように振舞って久しい今日、本気も本心もあったものではない。

「足りないと言っても、お前はそれ以上を寄越さないだろう」
「よくおわかりで」
「ならば、いい。とりあえずはそれで十分だ」

とりあえず、ときたか。降るように瞼に、目尻に、鼻に、頬に触れる唇の感触に笑みが漏れる。くすぐったいです、と咎めるように言ってみるが、抗議の言葉は再度深く口付けられて聞き入れられない。だが悪くない。何かに焦るように繰り返し触れる唇の感触と温度は、宇都宮の中に水滴が落ちる様に溜まっていく。

「上官」
「何だ」
「キスしかなさらないのですか」
「…ここは執務室だ」
「既に執務室にしては十分破廉恥な状態になっていると思うのですが」

笑ってみせれば、それはそうだが、と言葉を濁す。そんな純情ぶる年でもないだろうに、何を躊躇っているのか。欲しいものに手を伸ばせないほど臆病だというわけでもないだろう。それとも宇都宮が何か企んでいるとでも思っているのだろうか。宇都宮の性格を考慮すればそれはある意味で一番ありそうな理由ではあるのだが。

「されたいのか」
「キスだけでは物足りないなぁ、と」
「…本線」
「あなたの顔に書いてあるもので」

なさらないのですか、と笑いながら自分から口づける。耳元に唇を寄せて、その柔らかい耳朶に軽く歯を立てて、じょうかん、と甘ったるく囁いてみせる。肩を掴む手にぐっと力が入り、また低く、本線、と呼ぶ声。

「私はあまり相手を思いやれる性質ではない」
「…それが何か?」
「後悔するなよ」
「後悔なんて!」

それは東北の、恐らく優しさというものなのだろう。引き返すなら今だと。もしかしたら多少の罪悪感もそこにあるのかもしれない。けれど、今更だ。

「するはずがないでしょう?自業自得の意味を問うたのはあなたですよ」
「…そういえばそうだったな」

誘ったというほど色っぽくはない。どちらかといえば、嵌めた。好きだ、愛しい、お前が欲しいと、溺れる様に執着していればいい。それらの本質を宇都宮が理解することはないかもしれないが、そういう甘さを抜いた、苦いだけの執着ならば十二分に理解できる。抱きしめて、絡め取って、雁字搦めに。自分だけがこんな醜い色の執着心を抱えているなんて、酷い話じゃないか。だからそのまま溺れていればいい。この口づけ一つに毒の味なんてしないかもしれないけれど。

息ができなくなるまで、溺れてしまえばいい。

骨ばった手で脱がされていく制服と、肌に触れる汗ばんだ掌の感触に目を閉じて、大概自分も歪んでいるなと胸中でだけ自嘲気味に笑った。




***



まぁ最初にも書きましたが、この二人は で き て ま せ ん 。(3回目)
完全に東北上官の片想いです。片想い?
まぁうちの上官本線はいつでもこんな感じかもしれませんが。
ただ、宇都宮にとっての東北がムカつくくらい重要な位置にあるのも事実だしね。
まぁなんていうか、色恋とはちょっと違う感じの執着です。

ほんとはもっとこうべたべたにチュッチュしてる感じの甘ーいお話が書きたかったはずなのにどうしてこうなった…
そもそも書きたかったのは誘い受けでなくて男前な攻めだったはずなのに。
ふっへっへ…書きたいものと書けるものが違うのはいつものことである。
自分の作品に満足したことなんてありませんよ畜生…

本当はおまけに東北上官視点の独白を書いてたんですが、やっぱり過去捏造は夏を待ってから…!と思い直して消しました。
ご本家の夏の新刊見たらぽぽぽぽーんしてこっそり足してるかもしれんな…ふっへ。

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