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夢に溺れる(上官本線)

書けない時期を脱出できた…かな?
上官本線です。
ていうか、最初から色々ごにょりというか、いわゆるR18ってやつです。
本人的には大してエロくないんですが、やることやってるので一応注意。
書き始めは荒んでるなーと思ったけど、最後まで書いたら予想以上に甘かった!びっくりした!
何だかんだでムカつくくらいラブラブですよ。




***




時折思う。男というのは性行為で種付けをする以外に、相手を内側から溶かしてしまいたいのではないかと。思うけれど、溶けてしまいそうだと思うのは結局抱かれる側にならなければわからないから、きっとそんなことは思っていない。強烈な支配欲がそこにあって、もしかしたら溶かすなんて微温いものではなく、散り散りに壊して引き裂いてしまいたいというもっと暴力的なことかもしれなくて、それは本能よりもっと扱い難い衝動のようなものかもしれない。

そんな下らない、取り留めもない思考に捕われるほど、この人の行為は緩やかで長い。酷いことはされない。出来ないのだろうと思う。なぜ出来ないのかというその理由を知ってはいるけど、言葉にはしない。腹立たしいから。

「辛いか?」
「…っ…!」

耳元で囁くというよりは吹き込むように。掠れた吐息はきっと女性相手なら十分過ぎるほどにその威力を発揮するのではないだろうか。向ける相手が間違っている、と何度も告げたはずの指摘はいっそ鮮やかなほどに流されて。

「…ぅ、あ…」

熱い、苦しい、酷い。緩やかに、けれど確実に。激しくは無くともそうしているというだけで無駄に削られていく体力は、抗う腕を上げることさえ許してくれない。

「じょ…かん」
「もう少しだけ、我慢してくれ」

辛うじて喉の奥から絞り出した言葉は、食むように重ねられた唇に飲み込まれて。もう少しとは、あとどれくらいだろうか。既に二度三度と追いやられているのに。もう無理だと言ったところで、刺激されれば反応してしまうのは生理現象で、耐えうる限りに耐えた声は、唇を噛み締めることももはやできずに垂れ流し。押し上げられる度にポンプでも押されるように喉の奥から溢れ出る。

「あなた、の」
「…どうした」
「恋人になる人は、大変ですね」

こんな、緩やかに溺れて沈んでいくような行為を強いられるならば。ひとえにそれは嫌がらせであり、抵抗であり。浅い呼吸は過酸素なのか欠酸素なのかわからないまま、どうにか持ち上げた腕は何を掴めばいいのかわからずに宙を掻いた。

「それはすまなかった」

腰を掴む手の力が強くなる。多少爪が食い込んだところで痛いとは今更思わない。ぐずぐずと燻ぶるように疼くように与えられていたそれが急激に深くなる。ひ、と息を吸い込んで、溜まらずに目の前の体にしがみつく。非常に不本意だが、それはただの反射のような行為だ、と自分に言い聞かせる。体がそれほど柔らかいわけではない。骨の軋むような感覚に痛みとは違う重いものを感じるが、今はそれどころではない。最初からこうすればいいのに、と深いところを抉る少々乱暴な行為に、そうできているか知ることはできなかったが薄く笑みを作った。




濡れたタオルを渡してやると、気怠そうにそれを受け取る。清めてやるところまで自分がしてもいいのだが、それを嫌がる顔をするのだから仕方ない。

「こういうことはしないでほしいと言ったはずですが」

体を拭きながら刺すような口調で向けられた言葉に視線だけで返せば、行為の中で残した痕のことを言っているのだと知れた。

「そういえば言われていたな。忘れていた」
「…あなたは」
「夢中だったものでな」

それほど目立つ場所にはつけていないはずだ。彼の指摘したそれも、腕の内側、脇に近いところの柔らかい皮膚に小さく噛み付いただけ。不機嫌そうな表情で黙り込んだ彼の、柔らかい髪に触れる。表情こそ不機嫌ではあるが、とりあえずその手を退けられることは無い。欲しいと思ったのがいつだったのか、何故そう思ったのかも良くわからない。ただ、想いを伝え損ねたままに掴んだ手は振りほどかれず、済し崩しに今の関係がある。そもそも伝えるべき想いというのを、どう言葉にして良いものかいまだに自身でも測りかねているのだから仕様もない。

「あの」
「どうした」
「くすぐったいのですが」

こちらを向くこともなく言葉だけがやんわりと制止を訴える。強い意志を持たないのならばそれに従うこともあるまいと触れる手をそのままに、柔らかい髪を指先で掬うと、漸くその視線がこちらを向いた。残念ながらそれは極く鋭く剣呑なものだったが。

「あなたは、僕をどうしたいんですか」
「どう、というと」

質問に質問で返すのは間違ったやり方だと誰かが言っていたが、ただ少し狡いだけで間違っているとは思わない。どうしたいのかと問いかけておきながら、その理由を本当に測ることができないのなら、こちらから仕掛ける行為を甘んじて受け入れる必要などない。拒まないというのは、つまりそういうことだと思っている。思って、いた。

「僕は、あなたに明確な言葉を貰った記憶はありません」
「伝えた記憶もないな」
「…いつまでこんなこと、続けるおつもりですか」
「いつまででも」

もう少し言い方があったのではないだろうかと思ったが、口をついて出たそれは反射のようなもので、掛け値なしの言葉だ。

「甘い言葉が欲しかったか?」
「……」
「お前が女を口説くときのように、壊れものに触れるように真綿で包むように」
「…あなたにそんな情緒なんて求めていませんよ」
「手厳しいな」

伝えるとすればたった一言なのだろうそれを、まるで意地の張り合いの様に口にしない。多分それで正しいだろう感情の形を、たった一言に乗せるには、触れた分だけ重過ぎて。

「私の恋人になるのは、大変なのだろう」

先ほど言われた言葉をなぞるように返すと、ギリとその手が握りしめられる。可愛いものだ、と状況にそぐわない感想を抱きながら触れていた髪から名残惜しく手を離すと、落ちるように呟かれた何事かに手が止まった。

「何と言った」
「…僕が溶けてしまったら、あなたは責任をとってくださるんですか」

どこか自嘲めいた表情で言われたその言葉は、理解の範疇を超えていて。

「どうすれば責任をとったことになるのかがわからんが」
「僕にもわかません」
「飲み干してやる、といえば足りるか」

彼の心底驚いたような表情というのは珍しい。見開いた眼が、真直ぐにこちらの視線を捉え、何事かを言おうとして開閉する唇は言うべき言葉を見つけられないでいる。衝動に任せてその唇に噛みつくと、握りしめていた手が慌てたように腕を掴んだ。

「もう休め」
「…そうします」

深く接吻けることは諦めて、その感触を味わうだけにとどめる。休めとその肩を軽く押すと、人形の様に抵抗もなくベッドに倒れ込んだ。

「あなたの恋人でいるのは、大変ですね」
「すまないな」

先ほどと少し色を変えた言葉に口角を上げ、瞳を覆うように手を乗せると、存外に長い睫毛が掌を擽った。おやすみ、と呟くように落とすが返事は無い。寝付きが良い方ではないはずだが、相応に疲れているということなのだろう。無防備に晒された寝顔に、どんな甘い言葉よりも雄弁な甘えを感じて何とも言えない気持ちになる。

「溶けてしまったら、か…」

それがもし、抱かれているその瞬間の感想だというのなら、どれほどに甘美な言葉なのか。本人には見えないだろう位置につけられた、ほんの小さな所有印。すまないな、と何に対する謝罪なのか自分でもよくわからないままに落として、重ねるように唇を押しつける。



確かな体温と鼓動。



溶かしてしまうことなんてできないと知っているけれど。



溶けてしまうことなんてできないと知っているけれど。






夢の中でなら、そうあってもいいと思えるような


***


最初は遅漏な上官に付き合わされて、いい加減にしてください!てなるだけのネタだったはずだったんだけどな。
こんなべたべたになるはずじゃなかったのよ…

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