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星になど願わなくとも(うつ北)

ちょっと早いですが七夕話です。
上げるの忘れそうだったので先に上げておきます。
連載とは別の、既にできてるっぽい二人です。
場所は多分仙台の宿舎です。多分。
ごにょりなシーンはぶった切りました。
NLで書くのマジ恥ずかしいんですけど…!!




***


七夕といえば仙台ですよねぇ、とどこか他人事のように言いながら素麺を啜る宇都宮は、窓の外に視線をくれる。どんよりと重く空を覆った雲は一つの星明かりも落としはしない。

「お祭りは来月だけどね」
「旧暦でないと意味が無いでしょう。新暦の七月七日は一年のうちで一番降水確率の高い日ですよ」
「そうなの?」
「仄聞ですけど」

東北三大祭りに数えられる仙台七夕祭りは、旧暦の七夕に合わせて行われる。毎年のことながら賑わう祭りを思い出しているのか小さく笑う表情に北子も笑って返した。

「何か願い事はするの?あんた」
「僕ですか?そうですね…」
「あ、見て見て!赤いの!」
「おや、本当だ」

素麺の一筋を掬いあげて、赤というよりはピンク色の麺を嬉しそうに啜る。まるで子供のようにはしゃぐ表情は、普段の気の強い性格を覆い隠して随分と可愛らしい。

「で、願い事は?」
「思いつきませんね」
「そうなの?つまんない」
「ご期待に添えず申し訳ない」

言葉通り、唇を尖らせて不満そうな表情を作るそれは本当に子供の様で、思わず笑みがこぼれる。あなたは、と続けるときょとんとした表情で北子は宇都宮を見つめた。

「私も、無いかな」
「それはつまらないですね」
「悪かったわね」

意趣返しとまではいかないが、先ほど返されたのと同じように返せば、何かを考えるように目が伏せれた。

「だって、欲しかったものは多分、みんな持ってるもの」
「素敵なことですね」
「一緒に走るパートナーがいて、支えてくれる同僚がいて、慕ってくれる部下がいて、必要としてくれる人がいる。十分すぎるじゃない」

そうですね、と幾分大人しいトーンで返ってきた言葉に北子は少しばかりの違和感を覚える。彼はそうではないのだろうか、と。100年以上の歴史がある路線のその積み重なった想いの全てを知ることはできない。残された写真と文献と、伝聞。確かなのは本人の言葉なのだろうが、激動といっていい時代を走り抜けてきた彼らの歴史、記憶と言い換えてもいいそこへは簡単に踏み入ってはいけない気がして。

「幸せでないとは言いませんよ。仲間がいて、利用者がいて。僕らの様に人に作られた存在は、それが至高であるのは間違いないんですが、時代は変わりますから」
「そんな寂しいこと言わないでよ」
「…失礼しました」

その言葉の一端に、自分たちの存在があるのだと知っている。理解している。彼が走ってきた路線を切り離したのは、自分たちなのだから。それでも。

「無くなってしまうわけじゃないわ」
「だといいのですが」
「差し当たって、一番の願い事は『走り続けたい』ってことかしらね」
「あぁ…そうなりますね」

走り続ける。人に、必要とされ続ける。もしくは愛され続ける。とてもシンプルで、けれど途方もない願いだ。ただ一人の人と愛し合えればいいというだけの願いよりも遥かに遠く、我儘な願いだ。それでも願わずにはいられないほど。

「あんたも、ナーバスになったりすんのね」
「それはまぁ、そんな時もありますよ」
「東北ほどじゃなくても、もうちょっと硬い心臓かと思ってたわ」
「僕を何だと思ってるんですか」

呆れたように溜息をつき、素麺の最後の一玉をずるりと啜ってしまうと、眉を寄せた独特の笑みを作って箸を置いた。

「きっとあなたが思っているほど強くも、繊細でもないですよ。まぁ、好きな人の前でカッコつけたいのはありますけど」
「甘えてもいいのよ?」
「そうですね、たまにはそれもいいかもしれません」

星に願うまでもない。欲しいものはすぐそこ、手の届く距離。そもそも今夜は七夕でなく、星明かりも見えず。冷房の程良く効いた部屋は体温を不快に思うこともないだろう。テーブルの上、ツイと指を滑らせて相手の指先に触れると、ゆっくりと一度だけ瞬きした目がまっすぐに宇都宮の目を見つめる。

「甘えたいの?」
「えぇ。甘やかしていただけますか?」

甘えていいと自分から言ったはずなのに、一瞬たじろいだ様な表情を見せて。逃げられれば追いたくなるは性というもので、そこまで含めての表情なら大したものだと思うが、実際その表情は本当に驚いただけなのだと知っているから尚更愛しさがこみ上げる。

「短冊に書いて吊るしてもいいのですけれど」
「やめてよ」
「あなたがほしい、と」
「やめて」

そんなことしなくていい、と逸らされた視線と朱に染まった目許。

「それで、あんたが甘えたことになるなら、いいわよ。星になんて、願わなくたって」

指を絡めて引き寄せて、柔らかな肌に唇を押しつける。初めてでもないのにそうして触れるのは緊張があるらしい。可笑しくなりながら、グリと額を押しつけると、ねぇ、と控えめにかけられた声に顔を上げると、どこか悪戯な空気を纏わせて北子は笑った。

「知ってる?七夕に雨が降る日はね、織姫と彦星は子供に見せられないようなことしてるのよ」
「それはそれは…盛大なモザイクですね」
「だからね、そこまで盛大じゃなくていいんだけど」
「?」
「カーテン閉めてからでもいい?」

誰に見られるわけでもない、そんなことはわかっているけれど。思わず噴き出して額に口付けを落とす。恥ずかしそうに目元を染めて、それでも宇都宮の知る限りで極く幸せそうな笑み。北子が言ったその言葉通りだと、今更ながらに思う。欲しいものは、みんな持っている。自分も大概ロマンチストだなと自嘲を込めて耳元で囁くのは。


「了解しました、お姫さま」



***



仙台は何年か前に部活の大会で一度だけ行ったことがあります。
何つーか、すげぇ伊達の街だな、と思ったわけで。
仙台市民て地元大好きな上に派手好きってイメージがあるんだけど…どうなんだろう。
俺の知る仙台出身の方はみんなそうなんだよな。
七夕祭り行ってみたいぜー。
色々落ち着いたら東北旅行行きたいのぉ…

まぁ何つーか、宇都宮に限らずだけど長く走ってる子ほど移り変わる時代を見てるから、今更願い事ってなさそうだなと思ったのです。
でも何だかんだで笹の葉飾ってたら可愛いなぁ(笑)

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