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月を見上げる(うつ北)

十五夜なんで。
ほんとはBLで書こうと思ってたんだよ…
でも俺が書かなくても他の人が書いてるしさ…
うつ北は俺意外に書いてる人知らないしさ…
ってことで許してくれると嬉しい。
連載にぶち込みますよ。
というわけでまだ出来てない二人。
北子さんがちょっと意識し始めちゃってソワワっ…て感じで。
あと、東北上官はその無関心ぶりをそろそろどうにかした方がいいと思う。




***


今夜が十五夜であるということを知ったのは、机の上に飾られた鶏頭を見た時だった。今夜は饅頭を蒸すのだというまち子と、花屋で見かけて思わずそれを買ってきたのだという越子の話でそうと知り、今夜は晴れるだろうかと天気予報を調べたのはほんの気紛れだった。

至る夜、夜空に穴が開いたように白く輝く月は、なるほど中秋の名月と謂われる美しさ。ベランダで缶ビールを煽りながら眺める様なものではないと少々申し訳なくも思う。だからと言って誰かと一緒に眺めたいとか、もっとお洒落な感じにしたいとか、そういう願望があるわけではない。綺麗なものを綺麗だと思うのに、時も場所も関係ない。ただ、とほんの少し思う。隣に誰かがいてくれたなら、もう少し美しいだろうかと。そんな感傷的になる理由はどこにもないのだが、秋の虫の音と、少々肌寒いと感じるようになった夜風がそんな風に思わせるのかもしれない。

「寒くないのか」
「お帰り」
「ただいま」

からりと軽い音を立ててベランダに顔を出した東北は、腕に抱えたものをぽいと北子の足元に放る。というか、それは自分で飛び降りた。

「あら?」
「開けろとドアの前で待機していたので連れてきた」

オレンジ色のウサギ。ひょこひょこと北子の足元に擦り寄ってくると、何かを訴えるように見上げる。おいでと腕を伸ばせば、待っていましたとばかりに飛び込んでくる様はあまりに素直で思わず小さく笑う。あまり長くいるなよ、と一言残すと東北は部屋へ戻ってしまった。せっかくだから少しくらい月見を楽しんだっていいのに、と思ってみるが、その台詞も行動も自分らしくないと思い至り、特に何を言うこともなく夜空を見上げる。

「あんたも月は好きなの?」

ウサギだものねぇ、と腕の中に収まった温もりに笑いかけると、ピスピスと鼻を鳴らす。このウサギの主人は今夜の月を見ただろうか。それほどロマンチストでもない自分が単純に綺麗だと思ったこの夜空を、彼も見上げてくれていたらいいなと何となく思う。彼には太陽よりも月の方が似合いそうだ、と根拠もないことを思いながらラビットの頭を撫でると、ポケットの携帯が震えた。見ればまさしく今思っていた相手の名がそこに表示されていて、首筋から這い上がる様に熱が昇ってくる。照れる理由もないのに。

『今晩和、夜分にすいません』
「別にいいわよ。何かあった?」
『もしかしたらラビットがまたそちらにお邪魔しているのではと…』
「ん?ここにいるわよ。一緒にお月見中」

電話の向こうで申し訳なさそうに喋る宇都宮に思わず笑うと、月見ですか、とどこか嬉しそうに返ってきた。

『今夜の月は綺麗ですね』
「うん。名月って言われるだけあるわね。あんたも見てるの?」
『えぇ、窓からですけど。灯りを消しても本が読めそうなくらい明るいです』

眠れるかな、と笑いながら言うから釣られて笑う。確かにこれだけ夜が明るいと眠るのにも少々障害になりそうである。頑張って寝なさいと笑えば、わかりましたと少し困ったように笑う声。

『北子上官もあまり遅くなりませんよう。季節の変わり目ですし、温かくして休んでくださいね』
「大丈夫よ。今夜はラビットもいるし、温めて貰うわ」
『僕の代わりだと思ってください』

何バカなこと言ってるのよと笑い飛ばし、適当に電話を切る。電話の相手が主人だとわかっているのか、耳をピンと立てじっとこちらを見上げていたラビットは、電話が終わるとまたもぞもぞと鼻を押し付けてくる。

「今夜の月は…綺麗ね」

同じ時間に同じ空を見上げていた。ただ、それだけ。

「あんたのご主人さま、眠れるかしらね、今夜」

ねぇ、とラビットに軽く頬を触れさせると、柔らかい毛が肌を擽る。夜風はそれなりに冷たいのに、いまだ首筋というか耳元が熱い気がする。風邪でもひいたのかな、などと誰に言うでもない独り言。残ったビールを一気に飲み干して、もう一度だけ月を眺める。白い月は相変わらず綺麗だ。ラビットを抱く腕に少しだけ力が入る。何かを言いたそうに鼻を擦りつけてくるラビットの頭を撫でて部屋に戻る。



月の明かりが瞼を閉じても入ってくるように、電話越しの声がいつまでも耳に残って離れない。今夜、私は眠れるのだろうか。人の心配をしている場合ではないということを時間差で思い知らされ、溜息とともにラビットの柔らかい毛並みに顔を埋めた。

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