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バレンタインですので(色々ごった煮)
たまにはちゃんとイベントに乗っかったものでも。
有楽町*武蔵野、東北*宇都宮、高崎*上越、ジュニア*京浜東北。
全員できてる設定で。
相変わらずうちの京浜東北は酷い。だがそれがいい。
最後だけちょっぴり苦いのは依怙贔屓です。
有楽町*武蔵野、東北*宇都宮、高崎*上越、ジュニア*京浜東北。
全員できてる設定で。
相変わらずうちの京浜東北は酷い。だがそれがいい。
最後だけちょっぴり苦いのは依怙贔屓です。
***
「有楽町」
呼ばれた声に足を止め振りかえると、ヘラリと笑う見慣れた表情。ポケットに突っこんだ手やら丸まった背やらが何とも、寒い、と全身で表現するかのようで笑みを誘う。彼の場合、冬だからそのスタイル、というわけでもないのだが。
「お疲れ。何かあったのか?」
「いんや。今日はいたって平和よー?」
お前に会いに来たの。そう続けて言う武蔵野は、ほんの少しだけ視線を逸らして、ほんの少しだけ何かに迷ったような表情をして、ポケットから手を出した。
「有楽町、口、開けろ」
「は?」
「いいから、ほら、あーん」
まるで子供にそうするように、あーん、と間の抜けた調子で言われ、思わずパクリと口をあける。冷たく渇いた空気がすぅと喉の奥を突いて、咳き込みそうになる、直前。口の中に放り込まれた何かにそのまま口を閉じると、武蔵野は満足そうな顔をして笑った。四角いそれは舌の上でじわりと溶けて、それとすぐにわかる甘さが広がる。
「ちょこ?」
見ればなるほど、武蔵野の手には今剥がしたのだろう、チョコレートの包み紙が握られている。
「ま、バレンタインだし。どーせ、高いもんは食い飽きてんだろ?」
「ばれんたいん」
そういえばそんなイベントがあった、と今更ながら思い出した。恐らく一連の思考がそのまま顔に出ていたのだろう、呆れたように武蔵野は溜息をついて肩を上下させる。
「お前なぁ…いくら自分に縁が無いって言ったって、イベント好きのメトロ様だろうが」
「いや、まぁそうなんだけど…」
張り合いねぇな、と苦笑を零したのは武蔵野がそれなりに考えてここまでやってきたからだ。基本仕事が優先の有楽町が、イベント事があるからと言って武蔵野に会いに来るとは思えない。自分から会いに行くのは構わないが、恋人同士のイベントに、仮にも恋人に会いに行くのだ。何もないのも気が引ける。だからと言って値の張るプレゼントなんて渡す間柄でもない。世間の女子のように手作りなんてもってのほかだ。そもそも武蔵野は料理なんて滅多にしないし、できないと言ってもいい。恋人のためとは言え慣れない料理をしているところなんて誰かに見られたら死ねるし、想像するだけでも自分自身で引いてしまう。あからさまにそれと思われないような、けれど恋人だから会いに来たのだと主張できるような何かを、それなりに考えてきたのだ。
「ごめんな、武蔵野。ちゃんとお返しはするからさ」
「いらねーよ、お返しとか。だってそれ20円だぜ?」
それは有楽町にもわかっている。コンビニのレジ脇に置いてあるような、たった20円のチョコレート菓子。ただ、口の中に広がった甘さはチョコレートだけのものではなくて。
「けど、わざわざそれを俺の口に入れるために会いに来てくれたんだろ?」
運よく会えるかもしれない新木場ではなく、わざわざ歩いて出向かなければならない朝霞台まで。まぁね、と頭を掻く武蔵野の目元は少しばかり赤い、気がする。ありがとう、と笑いかけると、おぅ、とそっけない返事。あまり見ることのない武蔵野の照れるという表情に少しばかり可笑しくなりながら、来月の14日は忘れないようにしようと胸に誓った。
+++
バレンタインね、と溜息のように吐き出して宇都宮はキオスクの前で立ち止まった。普段そんなところで見かけることのない武蔵野を見かけ声をかけたのは別に意図があってのことではない。聞いてみれば、少し遠回りをして行きたいのだということだったが、あちこちで売られているイベント仕様のものではなく、いつでもどこでも買えるようなチョコレート菓子ひとつでそこまで悩めるものなのかと、少々驚いたくらいだ。
宇都宮自身、宇都宮、というよりは、東北本線としてそれなりの数の差し入れを貰うこの日は、甘党の宇都宮としてはそれなりに楽しい日ではある。切り離されてしまったが、青森や岩手の在来はいまだに自分を本線と呼んでくれるし、それなりに考えた贈り物をもらうことも多い。どちらかと言えば貰うことが多く忙しいのは3月だが、たまにはイベント事に乗ってみるのもいいだろうかと気紛れを起こしてみたのが間違いだった。
「珍しいね、君がそういうお菓子を買うのは」
「そうかな?僕も普通にお菓子くらい食べるけど」
置き場に困り机の上に無造作に置かれたポッキーの箱を見て京浜東北が声をかける。貰ったものだよ、といつものように誤魔化せばよかったものを、それをしなかったのはぼんやりと考え事をしていたからだろう。
「まぁ、そうだけどね。何も今日買うことなかったんじゃない?」
たくさん貰うでしょう?と嫌味でも何でもなく言い放ち、ことりと机の上に置かれた小さな箱に視線を上げるとあまり表情を変えることのない京浜東北が小さく笑った。
「何?」
「僕から」
「…京浜東北って地味に律義だよね」
「そこそこに律義じゃないと、こんなポジションやってられないよ」
きっと在来連中に配っているのだろうチョコを見つめ宇都宮は苦笑を洩らす。箱を手に取ろうとして、上からばさりと載せられた書類に眉根を寄せると、薄く笑んだ表情のまま京浜東北は続ける。
「確か東北上官は、ポッキーが好きだったよね。ついでだからこの書類も出してきちゃってよ」
その表情は先ほどまでのものと違い、それこそあまり見ることのない揶揄の色が混じっていた。
「京浜東北ってさ、そういう性格の悪さをどうして普段から出さないの?」
「嫌味は嫌味だと通じる相手に言わないと意味が無いだろう?第一、僕の半分は君なんだから、性格の悪さは君譲りだよ」
いってらっしゃい、とこちらが拒否する間もなく背を向けてしまう京浜東北に浴びせる批難の言葉も思いつかない。書類とポッキーの箱を片手に向かう上官室。遠回りしたくなる武蔵野の気持ちが、ほんの少しだけ理解できて、何となく申し訳ないような気持になった。
+++
「君の機嫌がいい顔はほんっと腹立たしいよね」
言い放って上官室を出たはいいが、向かう先があるわけではない。書類とともに渡されたのだという、何の変哲もない菓子の箱一つに浮かれている同僚が羨ましいだなんて。とはいえ、東北が浮かれているのを見て判断できるのなど上越か、彼の嫌いな東北の並行在来でしかあり得ないのだが。
「チョコなんて毎年たくさん貰ってるじゃないか。馬鹿じゃないの?!」
傍から見れば上越の独り言はチョコを貰えない僻みにしか聞こえないのだが、決してそんなことは無い。仮にも高速鉄道である、上越もそれなりに貰うものは貰うのだ。上越が荒れている理由はそこではなく、まるで幸せな恋人同士です、と見せつけられたことが悔しいのだ。勿論東北本人にそのつもりは一切ないのだが。
「大体あんなやっすいお菓子一つでさ、本当に好かれてるかも…」
「上越上官!」
パタパタと近づいてくる足音と自分を呼ぶ声。振り向かなくてもわかる存在に引き攣った顔をとりあえず元に戻す。どうかした?といつも通りを装って声を返せば、紙袋を片手に下げた高崎が、あの、といつも通りの緊張した声で返事をする。
「これ、よかったら」
食べてください。そう言って渡されたのは聞くまでもなく、それ、なのだろう。
「…ありがとう」
声に不満が混じるのは、それが彼の手に下げられた紙袋から取り出されたものだから。これから誰かに配るのか、彼が貰ったものなのか。それは彼の口から聞かなければ知りようが無いけれど、そこに入れられていたという事実が、何だか自分がぞんざいに扱われていたようで気に入らない。上越の不満を感じ取ったらしい高崎が、少しだけ困ったような顔をする。
「あの…上越上官、甘いものお嫌いでしたっけ…?」
「ううん、そんなことないよ?」
答えても高崎の困ったような表情は戻らない。それはそうだ、上越は不機嫌を隠す気などさらさらなく、高崎が困っているのが楽しいのだから。
「ねぇ、高崎」
高崎の手を掴みそのまま物陰に隠れるように彼の背を壁に押し付ける。少しばかり高い所にある彼の視線にぶつけるように瞳を覗きこみ、触れるか触れないかの位置まで顔を寄せると、ひゅ、と彼の喉が鳴った。
「僕のこと、好き?」
「え、あの」
「ねぇ」
紙袋をその手から落とし指を絡める。目元がジワリと赤く染まり照れと困惑が渦巻いた表情が何とも可愛い。
「す、き…です」
掠れた声で呟かれた言葉に満足して上越が高崎から離れると、高崎は紙袋を拾う前に上越の腕を掴んだ。
「あの、俺。チョコ渡したの、上越上官だけですから」
「…ふぅん?」
「俺、が貰ったのは…あの、俺甘いのあんまり得意じゃないから…他の奴に配っちゃったし」
「それで?」
あの、あの、と言いたいことが自分でもわからないのか口をパクパクさせる高崎に、ぶつけるようにキスをする。既に十分真っ赤だった顔は更に赤くなり、ふらりと後ろに揺らいだ体は壁にぶつかって高崎はそのまま座り込んだ。ここまで言わせたのもさせたのも上越なのだが、情けないね、と小さく笑って、泣きそうな表情の高崎を置いてスキップでもしそうな調子で上越はその場を後にした。
+++
「お疲れさま」
言って座り込んだジュニアの頭を撫でると京浜東北は苦笑を零した。兄の為にチョコレートを作り渡すところまでは良かったが、何を間違えたのか機嫌のいい上越と山陽に絡まれて弄り倒されてきたらしい。あの東海道と兄弟なのだから、他の上官たちに可愛がられているのもわからないではないが、それでも疲れただろうと察することはできる。テーブルの上に湯気の立つカップを置くと、そろりと伸びた手はカップではなく京浜東北の手を掴んだ。
「けーひん」
「ん?」
「ちょこ」
食べたい、と握りしめた手に力が入る。はいはい、と傍らの袋を引き寄せると、食べたいと言ったのは自分だというのにそれを邪魔するようにもう片方の腕もつかまれる。
「ジュニア。両手掴まれたらチョコが出せないよ」
「んー…」
引きずられてされるがまま抱きこまれる。困ったな、と口には出さずに大人しく抱きしめられていると、けーひん、とまた子供のように名前を呼ばれる。呼ばれる度に、どうしたの、と返すがなかなか言いたい言葉は出てこない。せっかく入れたお茶が冷めてしまう、と少しだけずれた思考に向いたとき、漸くジュニアの口から違う言葉が出てきた。
「京浜は、嫌じゃない?」
「…?何が?」
「俺が、兄貴にチョコ渡してんの」
少しの間を置いて、京浜東北は首をかしげた。何を今更。彼が兄にチョコを贈るのは毎年のことなのだ。ついでに言えば、そのチョコ作りを手伝わされてもいる。今更それを嫌だなどと、どうして思う必要があるのだろう。第一、それを嫌だと京浜東北が言ったところで、ジュニアが兄を好きなのは変わらないのだ。
「嫌だって言ったら、どうする気なの?」
「…困る」
答えになっていない、が、本心なのだろう。困ったのはこちらだ、と声に出さないように京浜東北は笑い、ジュニアの腕を柔らかく解くと先ほど開けられなかった包みを開けてチョコレートを一粒、彼の唇に押し付けた。
「東海道」
「…俺?」
「うん。例えばね、僕が君のお兄さんやそれ以外の上官たちを、本当は嫌いだとして。君は僕のことを嫌いになるの?」
口の中に転がり込んだチョコレートを舐め溶かしながら、ジュニアは返す言葉を探す。嫌いになんてならない。なれないことは、わかりきっている。ただ、どう言えばそれが間違いなく伝わるのか、わからない。
「お、れは。俺を東海道って呼ぶのは、兄貴と、京浜だけで。同じじゃないんだけど、お前にそう呼ばれんの、好きだし、嬉しいんだ」
「そう」
「俺、は」
ふに、と唇に唇をあてる。唇に残ったココアパウダーをチロリと舐めとり京浜東北が笑ってみせると、強く抱きしめられて少しばかり息が苦しい。ジュニアの背に腕を回し、褒められたことではないけれど、嘘を交えて言葉を吐き出す。
「嫌かって聞かれたら、嫌だよ。でも、いいよ。僕は君が好きだから、東海道がお兄さんのことを好きでも、それも許してあげる。君にとってそうでなくても、僕にとって君はジュニアじゃなくて東海道だし、君が東海道本線なんだよ」
チョコレートを一粒咥えて、とんとんとジュニアの背を叩く。ゆっくりと力の抜けた抱擁に少しだけ体を離してもう一度、一度と言わず何度も、キスと言うには随分雑なキスをする。口の中で溶けたチョコレートがビター風味なのは、ほんの少しの悪あがき。けいひん、と縋るように自分を呼ぶ名前にその手を握り返し、間違いなく彼の名であるそれを、甘ったるく口にした。
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