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そんなのは狡い、なんて(うつ北)
本当はマンガで描きたかったんだけど原稿とかその他もろもろでそんな余裕が無くなってしまったので文章で。
誰かマンガ描いてください、俺に北子さんを…
と、そんなこんなで宇都宮と北子です。
宇都宮が回を追うごとに酷くなっていくんだがどうすれば…
誰かマンガ描いてください、俺に北子さんを…
と、そんなこんなで宇都宮と北子です。
宇都宮が回を追うごとに酷くなっていくんだがどうすれば…
***
「キャアァァ!!」
絹を裂くような乙女の悲鳴。何事か、すぐに駆けつけなければ。と往年のヒーロー漫画のような思考回路は残念ながら持ち合わせておらず。あまり聞くことが無い高さとはいえ、その声は紛れもなく知り合いのもので、昼食を終えミーティングルームへ向かおうとしていたところへ聞こえたそれに僕らは揃って足をとめた。振り返って廊下の向こう、階段のある位置から盛大に紙吹雪、もとい書類が舞い散る。ついでにガンゴンと酷い音を立てて転がった段ボール。
「派手にやったね…」
「だな」
このまま見過ごすのはさすがにできないだろうと、宇都宮、高崎、京浜東北、東海道の四人は惨状と化している踊り場を覗き込む。床を埋め尽くした大量の書類の中、ペタリと座り込んでいる北子と、あたふたと書類をかき集める越子。大丈夫ですかと声をかければ、疲れた様な表情で北子が顔を上げた。
「あぁ…あんたたち、ちょうどいいわ。ちょっと手伝ってよ」
「それは構いませんが…大丈夫ですか?」
「ぅん?あぁ、私は平気よ」
苦笑しながら答える北子に、そうですかと簡潔な返答をし、足元の書類を拾い始める。相当量があったらしく、雪崩のように階段下まで滑り落ちている。ひょこひょことそれを集める越子の足元の危なっかしさはいつものことで、見かねた高崎と東海道が降りていった。
「こういう力仕事は誰かに頼めばよろしかったのでは?」
「まぁ、そうね…誰もいなかったし。こんなことのために呼びつけるのもちょっと申し訳ないじゃない。それに、そんなに非力でもないしね!」
「頼もしい限りです」
笑って言う北子に、社交辞令的に笑う京浜東北。相変わらずこの人は、と宇都宮は溜息をついて、書類を乱暴に段ボールに放り入れると北子の傍に膝をついた。
「で、ご自分で無理した結果がこの怪我ですか?」
「痛っ…!ちょっと!」
「これは歩けないんじゃないですか?」
「べ、つに平気よ、これくらい」
痛々しく晴れた右足首を掴むと痛みに顔を顰め、宇都宮の手を払いのける。座った位置から京浜東北からは見えなかったのだろうが、あからさまな反応は隠しようもなく。
「京浜東北、ここ頼んでもいい?医務室に連れて行くよ」
「その方が良さそうだね。高崎と東海道もいるから、手は十分足りるし」
「というわけですので、どうぞ」
掴まってくださいと手を差し出せば、これでもかというほど不服そうな表情をしてみせる。子供か、と思わず突っ込みたくなる反応に、それならと差し出した手を一度引く。
「じゃあ立ってみてください。一人で立てるようでしたらもう言いません」
「う…わ、かったわよ」
立てばいいんでしょ、と妙なまでの喧嘩腰。右足に体重がからないようにしているのだろう不自然な体勢で立ち上がろうとして、案の定というか何というかそのままぐらりと体が傾いだ。腕の中に落ちてきた体を支えると、痛みが強いのだろう、北子がぎゅうと握りしめた制服が軋んだ。
「わかりましたか?駄々をこねてないで、行きますよ。まぁ、僕が一緒というのが不服というのなら他の誰かを指名してもらっても構いませんが」
「…あんたでいいわよ…」
「宇都宮、相手は上官なんだから、高崎と同じノリで虐めないようにね」
「上官を虐めるだなんてそんな恐れ多いこと、僕がするわけがないだろ?」
呆れたような京浜東北にいつも通りの笑顔で宇都宮が返すと、盛大な溜息が返ってきた。それもこれも、いつもどおり。行きましょうかと笑いかけると、相変わらず不服そうな表情に少しだけ目元の朱を足して、華奢な手が腕にしがみつく。頭一つ背の低いその感触に、悪くない、と気付かれないように目を細めた。
医務室とはいっても学校の保健室のような部屋ではなく、ベッドの備え付けられた休憩室のようなものだ。ひょこひょこと不自然な姿勢で歩いてきたからか、支えがあったとはいえ変にだるい。医務室に入るなりベッドに体を投げ出すと、お疲れさまでしたと普段と寸分違わない声が降ってきた。
「痛かったでしょう?歩かせてすいません」
「仕方ないわよ。怪我したのは私だし」
「抱き上げて連れてきても良かったんですが、さすがにそれは怒られるかと思いまして」
「当たり前よ!そんなことしたらぶっとばすわよ!」
しれっと恐ろしいことを抜かす宇都宮に思わず枕を投げつけると、軽々とそれは受け止められてしまう。当たったからといって痛いものではないが、何となく悔しい。不機嫌を隠すつもりもなく頬を膨らませると、面白そうに笑われる。ムカつく。軽く放り返された枕を受け取ると、それじゃあ、と相変わらずいつもの調子で。
「ストッキング、脱いでもらっていいですか?」
「はぁ?!」
「湿布を貼らないと。さすがにそれは放っておいて治るものでもないでしょう?」
終わったら声をかけてくださいねと、ごそごそと棚の中を漁り始める。湿布を探しているのだろう。終わるまで振り向かないから、という意味もあるのだろうが、あまりにも当然のように物事が進められて納得いかない。納得がいこうといくまいとこのままでいるわけにもいかないので大人しく言われたとおりストッキングを脱ぐ。軽く捻っただけくらいにしか思っていなかった右足は先ほどより腫れが酷くなっているように見え、自分の不注意が原因とは言え何とも苦い思いだ。溜息の一つも吐きたい気持ちをとりあえず落ち着けて、宇都宮を呼ぶと失礼しますとベッドの脇に膝をついた。
「ちょっと!」
「少し痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」
「そうじゃなくて!自分でできるからいいわよ」
「…確か北子上官は、手先があまり器用では無いと記憶しているのですが」
「ぅ…」
確かに自分はどちらかと言われれば不器用で括られる側だが、湿布を貼るくらい不器用だってできる。包帯を巻くのだって、それなりにできる。多分。
「それに」
「何よ」
「せっかく役得なので」
ひやり、と冷たいものが腫れた足首に触れる。冷たさに思わず肩が跳ねるが、とりあえず足を引っこめることはしなくて済んだらしい。
「役得って、あんたね」
それはどういう意味の得なのだろう。上官に恩を売るとかそういうことであればまだわかるのだが、目の前の青年の癖の悪さは聞き及んでいる。どんな答えが返ってきてもおかしくはない、と少々身構えていたのだが、予想に反して返ってきたのは小さな笑い声だけで。追求するべきだろうかと悩んでいる間に慣れた手つきで巻かれた包帯はあっという間に足首を包んでしまった。
「上手いもんね…」
「恐れ入ります」
パタンと救急箱を閉じると当たり前のように部屋を出ていこうとするから思わず引き止めると、一瞬驚いたような顔をしてからくしゃりと笑った。
「手当はしましたけど、一人じゃ歩けないでしょう?松葉杖を借りてきますから待っていてくださいね」
「あ…うん。ありがとう」
さらりと当たり前のように頭を撫でた手が、あっさりと逃げていく。すぐ戻りますと言い残して締められたドアを茫然と眺める。まるで子供を宥めるようなその行動に、甘やかされたのだと思い至って思わず顔を覆った。最近こんなことばかりな気がする。彼に気を使われることが多い。まるで女の子のように。その一つ一つの行動に喜んでみたり照れてみたり、ひどい振り回されようだ。情けないにもほどがある。とりあえず、まずは一つ。どこかでお礼をしよう。
それは女性が男性に返すものではなく、単純に親切に対する礼として。恐らく赤くなっているだろう頬をパチンと叩いて気合を入れる。とりあえず誰かに見られなくてよかった、と一つ息を吐いた。
「宇都宮。北子上官は?」
書類を抱えた京浜東北に声を掛けられてどこかへ飛んでいた思考を戻す。大丈夫、いつも通り。
「あぁ、手当はしてきたよ。あれじゃ一人で歩けないだろうから杖借りてこようと思って。そっちは?」
「僕は午後のミーティングの資料用意しなきゃいけないから、高崎と東海道に任せてきた。越子上官にあれを運ばせるのも可哀想だし」
「あの華奢な体じゃね」
苦笑を零して見せると、そうだねと特に感慨もなく返す京浜東北。彼のそれはいつものことなので特に気にも留めない。それより、と続いた台詞に、何?といつも通りに返す。
「君はどうしたの」
「僕?」
「何だか機嫌がいいようだから」
「…まぁ、そうだね」
いつも通りに振舞えていると思っていたのだけれど、さすがに敏い。機嫌がいいというくらいであれば隠す必要もないかと少しだけ笑みを深くすると、京浜東北は何か意外なものでも見たような表情を作った。
「あまり蒸し返すのもどうかと思うけど、君は東北上官と色々あるから、北子上官とも微妙なのかと思ってたよ」
「そこまで狭量なつもりはないよ。それにあの人、可愛いしね」
「…そう。楽しそうで何より」
溜息を一つ吐いてそれじゃあと会議室に向かう京浜東北を見送って、当初の目的である松葉杖を取りに向かう。緩く握ったままだった手を開き、そこに残る感触を思い出す。役得だといった自分の言葉を、きっと北子は正しく理解していないだろう。つるりとした肌の、しっかりと筋肉の付いた、けれど男のようには筋張っていない柔らかで張りのある彼女の脚が、言ってしまえば非常に好みだったのだ。そして何より揶揄いがいがある。まるで初心な少女のような反応は外見や普段の言動とのギャップも相まって可愛らしいことこの上ない。
「もう少し遊んでみようかな」
可哀想だ!と叫ぶ高崎の声が聞こえたような気がしたが当然気のせいだ。次は何をしてみようかと想像を巡らせながら、どうしても緩む表情を引き締めるためにぱしりと軽く頬を打った。
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