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誘、襲(東北宇都宮+上越高崎)
冬に出した薄い本の原版の話。
姉御と語っていたらテンションが上がって書きなぐってしまった。
で、それを姉御が絵に起こしてくれたという。
自分の話なのに他人が描くという不思議な現象に鼻血出るかと思いました。
姉御と語っていたらテンションが上がって書きなぐってしまった。
で、それを姉御が絵に起こしてくれたという。
自分の話なのに他人が描くという不思議な現象に鼻血出るかと思いました。
***
「恨んでなんかいませんよ」
後ろから掛けられた声に東北が顔を上げると、正面の窓ガラスには宇都宮が映っていた。窓の外、吹き荒ぶ雪は十分に吹雪といっていいレベルで、仕事をする気を根こそぎ奪っていく。振り返ると、今日の分の報告書を提出しに来たのだろう、茶封筒を手にしている。
「そもそも恨まれる覚えがない」
「それならよろしいのですが」
宇都宮の表情はいつもと変わらない。薄く笑んだそれは、貼り付けたように完璧だ。直接手渡せばいいものを、本人がいる目の前で宇都宮は机の上に置き、東北は伸ばしかけた腕を下ろした。
「…もうすぐ俺を見下ろせるようになるんだろう」
「えぇ。そう聞いています」
とても楽しみです、と笑みを深くする。ため息交じりで笑うと、それではと部屋を出て行こうとする宇都宮。窓の外は唸りが聞こえるほどの吹雪である。まだ走るのかと問おうとして、問いかける前に体が動いていた。
「何でしょうか?」
宇都宮の手首をがっちりと捕まえた手は必要以上に力が入っている。顔を顰めて振り向いた宇都宮は、東北の表情を見て笑った。
「そんな心配そうな顔をしなくても、今日はここの宿舎に泊まりですよ。戻るのはさすがに骨ですから」
「…そうか」
自分がそんな表情をしていたとは気づいていない東北は、気が抜けたように掴んだ腕を放す。とはいえ、東北の表情の変化に気づくものなど、そう数がいるわけではないが。何を言おうとしたのか、何をしようとしたのか、特に理解しないまま衝動的に起こした行動で、東北はばつが悪そうに視線をそらした。人をからかうのが好きな宇都宮が、それを面白がらないわけもない。こぼれる様に笑い、そんなに心配なら、と少しだけ甘えたような声。
「上官の部屋に泊めていただけますか?いずれと言わず、今すぐに貴方を見下ろすのも一興です」
その言葉が意味するところを、少しの間を置いて東北は理解し、そうだなと小さくつぶやく。
「泊まっていけばいい」
+++
宇都宮が仙台に泊まるという連絡を受け、高崎は困っていた。高崎が現在いるのは大宮の宿舎である。一応自分の部屋というものが存在するのだが、部屋の鍵をよりによって高崎駅に置いてきたのだ。八高からのメールで高崎はそれを知ったわけだが、ならば宇都宮の部屋に泊めてもらえばいいと軽く考えていたのだ。気づいたときに戻れば間に合ったのに、戻らなかったのは自分の責任である。他の誰かの部屋でも構わなかったが、既に大分遅い時間、訪ねるには少々申し訳ない。どうしたものかと、とりあえず温かい飲み物を買おうと自販機に向かうと、出来れば逢いたくない人間と遭遇した。
「やぁ、高崎。君は元気そうだね」
言って上越はにっこりと笑った。随分と機嫌がいいように見え、高崎は喜ぶべきか否か瞬間迷った。機嫌が良くても悪くても、上越が絡むとろくなことにならないのは経験上分かっていた。それが上越を嫌う理由になりはしないのだが。
「こんな時間にどうしたの?」
「いえ…あの、飲み物を」
「部屋でお茶くらい入れられるだろう?」
コーヒー一本買いに来ただけなのに、どうしてこんな絡まれ方をするのだろう。今日はきっと運が悪いのだ。今日という日はもうすぐ終わるけど。高崎は適当にごまかそうとして、けれど自分が言い訳もうそも苦手なことを思い出す。仕方なく正直に事実を打ち明けると、上越は上機嫌な笑顔をさらに重ね高崎に言った。
「それなら私のところに来る?」
「えっ」
「嫌なの?」
「嫌とかそういうんではなくてっ…あ、あの、でも、上官の部屋になんて」
「おいでよ」
ね?と小首を傾げる上越に、拒否権は無いのだと知る。
「邪魔する奴がいないなら、こんな素敵なことは無いじゃない」
鼻歌でも歌いだしそうな調子で、上越は高崎の手を引く。邪魔する奴、というのが宇都宮を差しているのはなんとなく分かったが、何に対しての邪魔なのか高崎にはいまいち分からない。ただ、掴まれた手の冷たさに少しだけ肩が跳ねた。
「上官、手、冷えてますね」
「今日は寒いから仕方ないよ。君は温かいね。せっかくだからもう少し湯たんぽになっててよ」
意味ありげに笑う上越の笑顔の裏を読む頭を高崎は持っていない。しどろもどろに肯定の返事を返す。それがどういう意味なのか、せめてもう少し考えられれば、翌日八高に何を言われても動揺する必要など無かったのだが。八高につっ込まれ赤面する場面を見られ、さらに宇都宮に事実を追及されるのは、さらに逃れようの無い事実だった。
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