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君の記念日(九州+山陽)

サイト作ったのに何もないのも淋しいので1年前ですが何故か書いてた九州と山陽の話でも。
1年前なので今よりひどい。本当に。
結局公開しどころが無くてお蔵入りになったという可哀想な子。
個人的には93が好きですが、ものによっては39も行けると最近気づいた。
九州が好きです、大好きです。





***



3月14日。俗に言うホワイトデー。製菓会社の戦略により、愛の日と決められた2月14日の付属的イベントとしてさらに戦略的に決められた白い日。誰にでも愛想がよく面倒見のよい山陽は、一月前のその日、当然の様に山のようなチョコレート菓子を受け取っていた。お礼は3倍返しが基本、などとはさすがにいかず、手ごろな値段のクッキーを本の気持ちとお礼として配って歩いていた。最後に手元に残った一つは他の包みとは違う。そもそもホワイトデーのプレゼントですらない。顔を合わせることがあれば渡してもいいかと思っていたが、そもそも自分から会いに行くような用事もない。よほどのことがなければ呼び出しもない。どうしたものかとテーブルの上の白い包みを眺めていると、ノックもなしに勢いよく扉が開いた。

「相変わらず唐突だな」
「相変わらず間抜けな面だな」

黒い髪をきっちりと七三に分け、きつそうな目元に眼鏡。当然とでも言うように部屋に入り、どっかと向かいのソファに腰を下ろした九州は、山陽に小さな包みを投げて渡した。

「くれてやる」
「何です?」
「在来の連中に配っていたのだが一つ余った。明日は、貴様の開業の日だろう。ついでだ」

白いシンプルな包みに赤いライン。どう見たって800系意識じゃないかという突っ込みはとりあえずおいておく。それより何より、目の前の男が自分の開業日を覚えていた事実に驚愕した。40年近く、昔のことなのだ。それこそ東海道を支えるために作られた路線といっていい。山陽、という単独の路線というよりは、東海道山陽とセットで呼ばれてしまうような。日本の東西を結ぶのには必要な路線であるが、オリンピックのために作られた東海道などに比べれば、その記念なんて霞んで当然、なのだが。

「…ありがとう…ございます」

素直に喜んでいいものかと、それさえ不安になる。この男のことだ、何かまたわけのわからないことを言い出すのではないかと思い始める始末だ。

「礼はいらん。先行投資のようなものだからな」
「…あぁ…そういうこと…」

九州の見据える先は首都、東京。自分など飛び越えて、見えているのは一羽の鳩だけだ。本当に、自分などついででしかないのだろう。そう思うとよほどわかりやすく、この男らしい。気も楽になる。

「じゃあ、俺も」
「何だこれは」
「余ったんで」

どうぞ、と小さな包みを渡すと、暫しその視線が落ちて、フンと鼻を鳴らした。

「嘘が下手だな、貴様は」
「…開けもせずにわかるアンタがおかしいんだよ」

包みの中身は菓子ではない。他の包みと同じようなサイズで、同じような包装しかしていないが、全く同じようなものではない。

「昨日が、九州新幹線の開業日だろ」

山陽と二日違い。6年前の昨日、九州の新幹線は部分的ではあるが開業した。

「別に祝う義理も無いとは思ったけど、壊れてるみたいだったからな」
「壊れてなどいない」

包みの中身は運転手や車掌の物のと同じ型の懐中時計。何時から使っているのかしらないが、九州の胸のポケットに収まったそれは同じ時刻を指したまま、動いているのを見たことが無い。

「要らん」
「今持ってるのを捨てろなんて言わねぇよ。こっちも、ただの気まぐれだし」

気まぐれだ。けれど、その時計はこの世界にただ一つしかない。

「新しいものが好きなくせに、変なとこばっかり譲らないな、アンタは」
「つばめの名を継ぐというのは、譲れない過去があるということだ」

ばり、と乱暴に包装紙を破き、小箱の中の懐中時計を取り出す。裏の銀盤に刻まれたつばめのモチーフは、彼の誇りであるはずだ。

「つばめは、速く美しくなければならない。日本という国をその美しさで疾り抜ける、超特急という冠を譲れない。かつてそうであったように、人に愛されて疾り続けなければならない。それを望まれて、舞い戻ったのだ」

しゃらりと銀色の鎖が揺れる。本州を、日本という国を走りたいのだとその瞳が訴えていた。本州制覇などと冗談のようにうたっているが、それは冗談などではなく、つばめの名を持つことの妙な使命感のようなものなのだろう。

「せっかくだ、一応もらっておいてやる」
「そりゃよかった。要らないって言われても、俺には必要無いしな」

先ほど投げられた包みは、覚えのある大きさと重み。きっと中身は、彼の今手にしているものと同じものなのだろう。

「来年にはこちらも全線開通する」
「乗り入れも順調にいくと有り難いんだけどね」
「ならば努力することだな」
「…アンタのとこの社長だぞ。どう頑張れっていうんだよ…」

きっと来年の今頃は、自分の車両は彼の路線を走っているだろう。彼の路線が今、自分の路線を走っているように。付き合いの長い東海道がつばめを嫌う理由はわからないではないが、その誇りは守ってやりたいような気になる。いつか、南国のつばめが東京に帰れる日が来ることを祈って。まずは桜の舞う西日本を眺めるだけでよしとしよう。

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