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迷惑(Y←F)

何を間違えたのかYFです。
ていうかY←Fです。
どっちもノンケです。
先輩のこと好きすぎて上手く言えない副都心と、仕方ねぇなぁもう、という感じの有楽町。
可愛い副都心を書くと何かこう蕁麻疹が出そうになるんだけど何だろうこれ…

***


先輩が好きです、好きです。大好きなんです。あなたに褒められたくて、あなたに認められたくて、あなたに好かれたくて、好きでいて欲しくて。どうしたら僕を好きになってくれますか。

副都心が酒に弱いのは以前の飲みで実証済みだったので、できるだけアルコール度数の少ない物を、それも350ml缶を一本だけという条件で、一緒に飲みたいという後輩の誘いに付き合うことにした。べったりと甘えるように有楽町に抱きついた副都心は、多分酔っている。というか完全に出来上がっている。先輩、先輩、と浮わ言のように繰り返す声は微かに震えていて、どうしたものかと溜息が落ちた。幾ら酒に弱いといったって、これは早いだろう。だってまだ一本しか飲んでいないのに。

「せん、ぱい」
「うん、わかったから、とりあえず苦しい、離せ」
「嫌です。嫌。離したら先輩、帰っちゃうでしょう?」
「帰るよ。明日も仕事なんだから」

ベッドに運ぶくらいは手伝ってやるから、お前ももう寝ろ。きっと疲れているのだろうと結論付けて、絡みついた腕を解く。嫌だという割に大した力を入れずともその手は離れ、ほら、とベッドの方へ引き摺ろうとすると力なく項垂れた。

「嫌、です」
「いい加減にしろよ。そんな状態じゃ俺がいたって仕方無いだろ」
「…仕方なく、ないです」

行かないでください。俯いたまま蚊の鳴くような声で呟かれたその声は、まるで泣いているようで。こいつ泣き上戸だったか?ともう一度溜息をつくと、副都心がそろりと顔を上げた。

「いて、ください。帰らないで」
「…お、ま」

何て顔をしてるんだ。酒に酔った副都心は確かに素直だ。以前もそうだったけれど、こんな顔はしなかったはずだ。まるで捨てられたような、まるで、子犬のような。

「僕は、頑張らないと。だって、先輩に怒られて、ばっかりで、先輩を助けたいのに、助けられる、ばっかりで、先輩のことが、好きなのに、こんなに、好き、なのに」
「副都心…」
「行かないで、ください。まだ、起きてるから」

ふらふらと持ち上げられた手が服の裾を掴み、けれど何かに躊躇うように落ちていった。素直な副都心を見ることなんてそうそう無いので反応に困っていると、暫しの沈黙の後、またぽつりと落とすような声。

「ごめんなさい」

我儘を言いました、すいません。そう続けて、ふらふらとベッドへ向かう。倒れそうになったのを反射的に支えると、ぶつかった拍子にポケットから何かが落ちた。それは市販の鼻炎薬。

「お前、もしかして薬飲んでから酒飲んだのか」
「…鼻水、止まらなくて」

ごめんなさい。呆れたような有楽町の言葉に、叱られていると思ったのだろう副都心の声は尻すぼみに消えてゆく。市販の薬は眠気を誘う成分が入っているから、そのせいでこんなに酔いが回るのが早かったのだろう。元々弱いのだから尚更だ。支えた腕からずるりと逃れるように重力に任せてベッドに落ちると、副都心はシーツに顔を埋めたまま、もう一度ごめんなさいと呟いた。

「先輩に、迷惑ばっかり、かけて」
「…本当にな」

もう少し体力に余裕があれば、着替えさせてやるくらいしてやったかも知れないけれど、何だか力が抜けてしまった。ワイシャツにスラックスのままでは多少窮屈かもしれないが仕方がない。せめてベルトだけでも抜いてやるかとその肩を掴んで仰向けに転がすと、うっすらと切れ長の目が開いた。

「せん、ぱ、い?」

ベルトの金具に手をかけると慌てたように副都心の手がそれを止める。

「何考えてんだよ、男同士で」
「だって」
「何もしないって。ベルト抜いた方が楽だろ。そのまま寝ちまえ」
「でも、あの」
「いてやるから」

強引にベルトを引き抜くと、ぺチリとその額を叩く。そのまま掌で覆うように両の瞳を隠してしまうと、困惑したように自分を呼ぶ声。

「明日の朝までここにいるから、寝ろ」

おやすみ。言ってやれば何かを言おうとしていた唇はそれらを諦めて、おやすみなさいとだけ呟いた。さんざん迷惑を掛けられまくっているのだ、たまに素直な後輩をこうやって甘やかすのは、多分迷惑のうちにも入らなくて。

「騙されてる気がするなぁ…何か」

眠ってしまった副都心に毛布をかけて、とりあえずの上着を肩にかけてベッドの横の床にごろりと転がる。寒い時期でなくてよかった、と誰に言うでも無く呟いて目を閉じた。先輩、と呼ぶ声に、一体どれほどのものを詰めているのだろう、この手のかかる後輩は。先ほどの副都心の様子を思い出して少しばかり考えるが、有楽町は有楽町で飲んでいるのだ。思考は綺麗にはまとまらなくて。

「こういう迷惑なら、可愛いんだけどなぁ」

寝入りばなに有楽町が呟いたその一言を、副都心が知ることはなかった。

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